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福岡地方裁判所行橋支部 昭和46年(ワ)89号 判決

主文

一  被告有限会社築上交通、同井無田幹彦、同谷口東市、同織田清孝は各自、原告ら各自に対して金一、七五一、九二六円およびこれに対する昭和四六年七月三一日以降各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの右被告四名に対するその余の請求並びに、被告谷口静子に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告谷口静子との間に生じたものは原告らの負担とし、原告らとその余の被告四名との間に生じたものは、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その一を右被告四名の負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告ら)

被告らは各自、原告ら各自に対して金五、五五九、四一四円およびこれに対する昭和四六年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行宣言。

(被告ら)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二主張

(請求原因)

一  原告らの二女訴外亡宮崎智子(以下単に智子という)は、昭和四六年七月三〇日午前八時一五分頃、福岡県京都郡豊津町祓郷小学校前県道を横断中、被告有限会社築上交通(以下単に被告会社という)の従業員である被告井無田の運転する普通乗用自動車に衝突され、このため同年八月二日死亡した。

二  本件事故は、被告井無田が被告会社の業務を執行中前方注視徐行義務を怠つた過失により発生したものである。

三1  被告井無田が前記運転していた自動車(以下被告車という)は、被告会社が保有し自己のため運行の用に供していたものである。

2  また、本件事故当時、被告谷口東市、同織田は同会社の取締役、同谷口静子は同会社の代表取締役であつて、当時車両一〇台位の小規模な会社であつた被告会社の車両運行に関する責任を、右被告谷口両名、同織田の三名が随時協議して処理しており、右被告三名は被告会社の代理監督者である。

3  従つて、被告会社は自賠法三条本文により、被告井無田は民法七〇九条により、その余の被告らは同法七一五条二項により、本件事故によつて原告らが受けた損害を賠償する責任がある。

四  智子は昭和三六年五月一〇日生れで、原告らは同人と長女清子の四人家族であり、原告宮崎塚治(以下原告塚治という)はボイラー技士として、同宮崎田鶴子(以下原告田鶴子という)は日用雑貨などの店を経営して、比較的恵まれた豊かで平和な家庭生活を営んでいた。

ところが本件事故発生のため、いままでの生活は根本から破壊されてしまつた。すなわち原告田鶴子は、智子の死亡に伴い強い精神的シヨツクを受けて心因反応を起こし、日時の経過とともにそのシヨツクは薄れることなく継続し、日用雑貨店の経営も全くできず、しかも一人で日常生活をするのが危険な状態であり、このため原告塚治も仕事を休まざるを得なくなつた。

また原告田鶴子のシヨツクのため家庭内では長女清子との間にもトラブルがしばしば起り、年頃の娘である清子に対しこれまた精神的シヨツクを与え、同人の家出という事態まで引き起した。

被告らが示談に誠意を示さずことさらに争い、智子に過失があつたと主張することによつて原告田鶴子のシヨツクは倍加されている。

以上のような智子の死亡に伴う原告ら家庭の破壊という事実の総体を損害としてとらえ、これに智子の得べかりし利益などの金額を総合して考えると、原告両名が本件事故により蒙つた精神的苦痛を慰藉するものとしては、少くとも原告各自につき八、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(このような損害のとらえ方は熊本水俣病の示唆による。判例時報六九六号、法律時報二月号臨時増刊号)

五  原告らは各自「自賠責保険」より二、四四〇、五六八円の金員を受領しているので差引各五、五五九、四一四円が残損害となる。

六  よつて原告らは各自、被告らに対し各五、五五九、四一四円とこれに対する本件事故発生の日である昭和四六年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七  前記損害の主張が認められないとしても原告らの損害は次のとおりである。

(一) 智子の生年月日は前記のとおりであり、昭和四四年の簡易生命表によると、あと六六・〇二年の余命があり、原告らの家庭状況、高校教育の現状に照し、智子は生存していれば、高校教育を受けることは間違いなく、一八歳から六三歳まで四五年間就労可能である。

そして高卒女子全産業年齢帯別賃金によれば、最低別表のとおりの賃金収入を得た筈であるから、同表(三)欄記載の期間中総計額につき、各年齢帯の最後に賃金を得るものとして、ホフマン方式によりその現在高を算出すると、同表(四)欄記載の金額となり、これより生活費として賃金の二分の一を控除した四、四〇二、二六〇円が智子の逸失利益となる。

原告らは右四、四〇二、二六〇円の損害賠償債権を各二分の一宛相続により取得した。

(二) 慰藉料

原告らが智子の死亡により計り知れない苦痛を受けたことは前記のとおりであり、右原告らの精神的苦痛を慰藉するものとして、少くとも原告ら各自二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(三) 墓地、墓石費用

愛娘を失つた原告らはその霊を慰めるため、極く普通の墓地、墓石を建立することにしており、その費用は三八〇、〇〇〇円で、原告らが二分の一宛負担することになつている。

(四) 原告らは原告ら訴訟代理人に対して本訴の提起を委任し、その手数料および謝金として右損害合計八、七八二、二六〇円から「自賠責保険」より受領した四、八八一、一七二円を差引いた三、九〇一、〇八八円の一割七分の範囲内である六五〇、〇〇〇円(原告両名各二分の一宛負担)を支払う旨を約した。

(被告ら五名の請求原因に対する答弁)

請求原因一項の事実は認める。

(被告井無田の答弁)

請求原因二項の事実中、同被告が徐行義務を怠つたことは認め、その余は否認する。同四ないし七項の事実中、智子の生年月日、原告らが同人の地位を承継したことは認めるが、その余は知らない。

(被告会社の請求原因に対する答弁)

請求原因三項1の事実は認める。同四項の事実中、智子の生年月日は認めるが、その余は知らない。同五項の保険金が支払われたことは認める。同七項(一)の事実中、智子が高校教育を受けたであろうことは認め、その余は争い、同項(二)は争い、同項(三)(四)の事実は知らない。

二 請求原因七項(一)につき、

智子は、その能力、家庭環境から考えれば、通常二五歳までには結婚して家庭の主婦になつた筈であるから、二五歳から六三歳までの勤労婦人としての逸失利益を損害とすることは妥当でない。なお原告両名は智子の扶養義務者であり、同人の死亡により同人の将来の養育料、教育費(一カ月一〇、〇〇〇円)の支出を免れたことに帰するから原告らが相続した智子の逸失利益の賠償請求額からこれを控除すべきである。

(被告谷口両名、同織田の請求原因に対する答弁)

請求原因三項2の事実中右被告三名の被告会社における地位同会社の車両保有台数が原告主張のとおりであることは認めるが、その余および同項3は争う。同四項の事実は知らない。同五項のうち原告ら主張の保険金が支払われたことは認める。

(被告会社、被告谷口両名、被告織田の抗弁)

一  被告らは原告らに対し慰藉料として五〇、〇〇〇円を支払つた。

二  智子にも過失があつたので過失相殺がなされるべきである。

すなわち、智子は、当時満一〇歳の児童であつたが、このような児童にも危険を認識する能力があるというべきところ、同人は交通頻繁な道路において、しかも横断歩道でない道路を前後車両の進行状況を確認することなく、原告塚治が駐車しておいた車両の後方から突然路上に飛出すという過失があつた。

三  原告塚治は智子を学校まで見送るため軽ライトバンを運転して小学校前で駐車し、智子の横断を乗車したまま見守つていたのであるが、交通頻繁な道路においては幼児ないしそれに準ずる者を保護する責任のある者は、自ら付添うかまたは監護能力ある者を付添わせて幼児らの安全を期すべきであるのに、横断歩道手前約二〇メートルで駐車し、しかも付添者なしで横断歩道でない道路を横断させたことは、重大な監護義務懈怠である。

よつて原告らの過失は被害者側の過失として過失相殺がなされるべきである。

(右に対する原告らの答弁)

被告四名の抗弁事実を否認する。智子は事故直前、原告塚治の駐車させていた車両の後方から飛出したのではなく、左方より疾走してきた被告車にすい込まれたものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因一項の事実は当事者間に争いがなく、右事実と、成立に争いのない甲第八、九号証、同第一〇号証の一、二(但し後記措信しない部分をのぞく)、同第一六、二〇各号証、同第二四号証の一ないし三、同号証の五、六によると、被告井無田は、昭和四六年七月三〇日午前八時一五分頃被告車を運転して福岡県京都郡豊津町大字有久祓郷小学校前付近道路を錦町方面より椎田町方面に向け進行中、同所は左から右(被告井無田の進行方向からみて、以下同じ)にカーブしているため前方に対する見通しが良好でなく、また前方祓郷橋際の交通整理の行われていない交差点付近右側に原告塚治が駐車させていた軽四輪貨物自動車を前方約六〇メートルに認めたのであるが、交通量の少いのに気を許し慢然八〇キロメートルで進行したところ、右交差点内、右被告より約二〇メートル先の地点を右から左へ向け横断歩行中の智子を発見し、直ちに急停車の措置をとつたが間に合わず、被告車右前部付近を同人に衝突させてはね飛ばし、同人に頭部外傷Ⅲ型の傷害を負わせ、その結果同人をして同年八月二日死亡させたものであること、被告井無田は、前記進行中本件道路沿いに前記小学校があり、進路前方に前記交差点があることも知つていたこと、以上の事実が認められ、前掲甲第一〇号証の一、二、同第六、第一五各号証、被告井無田本人尋問の結果中、右認定に反する部分は後記のとおり措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

右事実によると、本件道路はカーブのため前方の見通しが良好でなく、加えて進路前方の交差点付近に駐車車両があり、その後方から前記小学校の生徒その他歩行者のあることも予想できたというべきであるから、被告井無田としては、制動距離を考慮に入れて適宜減速し、もつて危険の発生を未然に防止するべき注意義務があつたのに、これを怠り、交通量の少いのに気を許し、慢然前記八〇キロメートルの速度で進行した過失により本件事故を惹起したものというべく、従つて同被告は民法七〇九条により原告らの蒙つた損害を賠償するべき責任がある。

二  被告車は、事故当時被告会社が保有し自己のため運行の用に供していたことは被告会社と原告らとの間で争いがなく、そうすると被告会社は自賠法三条本文により、本件事故のため原告らが蒙つた損害を賠償する責任がある。

三  事故当時、被告谷口東市、同織田が被告会社の取締役であり、被告谷口静子が被告会社の代表取締役であつて、被告会社の保有車両台数が原告ら主張のとおりであることは右被告三名と原告らとの間で争いがなく、被告谷口東市、同井無田各本人尋問の結果によると、被告会社は、事故当時運転手一〇ないし一二人、事務職員四名という会社であつたが、同会社におけるタクシー業務は、被告織田が同会社支配人として、必要な都度被告谷口東市と相談して執行していたものであること、同会社の運転手の管理は被告織田が必要のある都度被告谷口東市と相談のうえ行い、また、運転手の採用は、被告織田と被告谷口東市とが相談のうえ決定しており、被告井無田も右方法で被告会社に採用されたものであること、被告谷口静子は昼休みのつなぎに被告会社の業務に従事していたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によると、被告谷口東市、同織田は民法七一五条二項にいう被告会社にかわつて被告会社の事業を監督する者に該当するというべく、従つて右被告二名は同法条により、被告井無田が前記不法行為により原告らに与えた損害を賠償する義務があること明らかである。

被告谷口静子については、前記認定事実や同被告が被告会社の代表取締役であることのみでは、右法条にいう被告会社の代理監督者であるとの原告らの主張を認めさせるに不十分であり、他に右主張を認めさせるに足る証拠はないので右主張は採用しない。

四  ここで、被告らの過失相殺の抗弁につき調べる。

(一)  被告会社、被告谷口東市、同織田は、智子が交通頻繁な道路を前後車両の安全を確認することなく原告塚治の駐車させていた前記軽四輪貨物の後方から突然飛出したと主張し、本件衝突現場近くに右車両が駐車中であつたことは前記のとおりであるが、前掲甲第八号証、同第一〇号証の一、二、成立に争いのない同第一九号証によると、本件事故現場は人、車ともに交通量は少なく、事故当時も車の交通量は少なかつたことが認められるし、前掲甲第八、第一六各号証によると、被告井無田が智子を発見した時、同人は未だ被告車進行車線とは反対側の車線上にいたと認められるところ、被告井無田が前方約二〇メートルの地点に智子を発見してから同人と衝突するまでの所要時間(時速八〇キロメートルであるから〇・九秒となる)と、前掲甲第八号証によつて右被告が智子を発見した時の同人の位置から衝突地点までの距離が約一・一メートルであると認められる点とを併せると、智子は、同人と同年齢の児童の足取りからみても被告井無田の発見当時、歩行していたものであり、右被告ら四名主張のように走つている状態ではなかつたと認められ、従つて、智子が駐車車両の後方から飛び出してきた旨の前記被告四名の主張にそう甲第六、第一五各号証、同第一〇号証の一、二、被告井無田本人尋問の結果は採用できない。

もつとも、前掲甲第八号証によると、智子は被告車と衝突時本件道路の中央線を超えて被告車進行車線上に約六〇センチメートル出た地点にあつたことが認められるけれども、右六〇センチメートルという距離と原告塚治本人尋問の結果(第一回)とに照らすと、智子がほぼ中央線上にきた状態で、被告車が八〇キロメートルの高速で中央線より約六〇センチメートル内側を通過しようとした勢いにより、被告車の側に前記距離だけ引き寄せられたとも考える余地があり、従つて、智子が被告車を確認することなく、中央線を越えて被告車進行車線上に出てきたとの前記被告三名の主張にそう甲第六、第一五各号証、同第一〇号証の一、二、被告井無田本人尋問の結果部分は、右の点および右原告塚治本人尋問の結果、成立に争いのない甲第一一、第一九各号証に対比してにわかに措信し難く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

なお、歩行者が横断のため、進行している車両の車線と反対側の車線上からほぼ中央線まで出てくることをもつて直ちに右歩行者に過失があるとはいえないことは明らかである。

次に、前掲甲第八、第一六各号証によると、智子が事故時横断していたのは横断歩道でないし、事故発生現場より約三〇メートル位錦町寄りに前記小学校児童の登下校のため横断歩道が設けられていることが認められ、また弁論の全趣旨によると、智子は事故当時満一〇歳であつたと認められ、従つて同人は危険を認識する能力はあつたといえるけれども、智子が横断していたのは交差点であることは前記のとおりであり、また前掲甲第一一、第二〇各号証、原告塚治本人尋問の結果(第一回)によると、右交差点で本件道路と交差する道路は前記小学校の裏門に通じており、同小学校の生徒も日常登下校に右交差点を横断していたものであること、本件道路の車道部分の全幅員は約六・五メートルに過ぎないこと、以上の事実が認められ、右各事実と智子の年齢を併せると、智子にも横断歩道外を横断していた過失があるといえるにしても、右過失は被告井無田の前記過失に比して極めて軽微であつて、本件損害額の算定に当り斟酌しないのが妥当である。

(二)  更に、前記被告三名は、智子の父である原告塚治が、智子を横断歩道外で付添人なしに横断させたことに過失がある旨主張し、前掲甲第一一、第一九各号証によると、原告塚治は前記駐車車両上にいたが、智子が前記横断歩道外の場所を横断するのを容認し、かつ付添人もつけなかつたことは明らかであるけれども、前記智子の横断歩道外を横断した過失につき認定した横断箇所の状況等の事実並びに、前掲甲第一一号証、原告塚治本人尋問の結果(第一回)により智子は成績も普通で、普段から学校、家庭で交通事故について注意を受けていたと認められる点を併せると、原告塚治が智子を付添人をつけずに横断歩道外を横断するのを容認したことは、過失といえるにしても被告井無田の前記過失に比し極めて軽微であつて、本件損害額の算定に当り考慮しないのが妥当である。

よつて、前記被告三名の過失相殺の抗弁はいずれも採用できない。

五  すすんで原告らの損害につき判断する。

原告らは、智子の逸失利益など財産上の損害も含ませて原告らの慰藉料を請求しているが、右は要するに、本件事故により原告らに生じた財産上、精神上の一切の損害を求めるというに帰するので、以下右損害を順次検討する。

(一)  智子の逸失利益

前掲甲第一一号証、原告ら各本人尋問の結果によると、智子は昭和三六年五月一〇日生れの健康な女子で、事故当時満一〇歳であつたこと(智子の生年月日は、被告会社および被告井無田の認めるところである。)、原告らの家庭状況からも智子が生存していたら高校教育は受けたであろうこと、以上が認められ、厚生省第一二回生命表によると、事故にあわなければ、智子は六四年余の余命があつたと考えられ、右各事実によると、智子は高校卒業の満一八歳から満六三歳に至るまで四五年間は就労可能であつたと認めるのが相当である。

そして労働省労働統計調査部発行の賃金構造基本統計調査昭和四六年第一巻第一表によると、同年度高卒の女子全産業(企業規模計)労働者の平均賃金収入は、毎月きまつて支給される給与が四二、九〇〇円、年間賞与その他特別支給額が一二三、〇〇〇円であり、従つて智子も生存していれば前記就労可能期間中、右平均賃金収入を下らない収入があつたと認めるのが相当である(なお、女児につき結婚を考慮すべきでないと解する)。

すると、智子が前記就労可能期間中毎年得べかりし収入は、次のとおり六三七、八〇〇円となり、

42,900円×(月)12+123,000円=637,800円

生活費として右年収の二分の一を控除した純年収三一八、九〇〇円を満一八歳で高卒後、前記期間毎年年度末に受取るものとして、その合計額をライプニツツ式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して事故時の現価にひき直すと、次のとおりその額は、三、四五七、九六〇円となり、

318,900×(事故時より就労最終年度末までの期間の系数18.5651-事故時より就労開始年度末までの期間の系数7.7217)=3,457,960(円未満切捨)

右三、四五七、九六〇円が智子の逸失利益となる。

そして弁論の全趣旨によると、原告らが智子の両親として智子の権利を各二分の一宛を相続したことが認められる。

(二)  養育料控除

ところで智子は、本件事故当時から就労を開始するまでの九年間(端数切上げ)にわたり、その養育費として相当の支出を要すると考えられる。右養育費は智子の両親である原告らの負担とすべきもので、智子が本件事故によりその出費を免れたものとはいえないのであるが、右養育料相当の出費は智子が前記収入を得るための前提である稼働能力を取得するための必要経費というべく、同人の両親である原告らが右収入相当の逸失利益を相続した一方で、本来支出すべき養育費の出捐を免れることは公平を欠き不当であることを思えば、智子の損害の算定に当つては右養育費を控除するのが衡平の理念に適合し相当である。

そして右養育費としては、智子が満一八歳で稼働を開始するまでの九年間一カ月当り一〇、〇〇〇円を要するものとみるのが相当であり、その年額一二〇、〇〇〇円を基準にライプニツツ式計算法により年五分の割合により中間利息を控除して事故当時の現価を算出すると、次のとおり八五二、九三六円となり智子の損害としては、前記逸失利益から右金額を控除した二、六〇五、〇二四円となり、従つて原告らの相続した各損害額はその各二分の一である一、三〇二、五一二円となる。

120,000円×9年間の系数7.1078=852,936円

(三)  墓地、墓石費用

原告塚治本人尋問の結果(第一回)とこれにより真正に成立したと認められる甲第三号証とによると、原告らは智子の霊を慰めるため、墓地、墓石を建立し、その費用として三八〇、〇〇〇円の支払債務を二分の一宛の割合で負担したことが認められ、右は本件事故による損害と認めるのが相当である。

(四)  慰藉料

前掲甲第一一、第一九各号証、成立に争いのない同第二七号証、原告ら各本人尋問の結果によると、原告らは事故当時長女清子と次女智子との五人家族で、原告塚治はボイラー技士として稼働し月六〇、〇〇〇円を下らない収入を得、同田鶴子は日用雑貨店を経営して月五〇、〇〇〇円を下らない収入を得、比較的恵まれた生活をしていたが、本件事故による智子の死亡のため、原告田鶴子は、その精神的シヨツクから心因性反応を起し、動悸、不眠、食欲不振、計算力低下などの症状が出て、人と普通に話すこともできず、右日用雑貨店経営もできなくなり、また右同原告は自殺を図つたこともあるため原告塚治も仕事に出られず、原告田鶴子の右症状は現在ややおさまつて快方に向つてはいるものの、未だ継続していて、そのため原告らは前記の如く稼働することができない状態であること、また長女清子は原告田鶴子に前記症状があるため、同原告とのいさかいが絶えず、このため昭和四七年八月頃家出したこともあること、以上の事実が認められ、右事実によれば原告らが本件事故による智子の死亡によつて従前の家庭生活を破壊され、収入もなく多大な精神的苦痛を受けていることが認められ、その他本件にあらわれた一切の事情に照らすと、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は原告ら各自につき二、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

六  損害の填補

原告らが自賠責保険から各自二、四四〇、五八六円の支払を受けていることは原告らの自認するところである。

七  弁護士費用

右みてくると、原告らは各自被告谷口静子をのぞくその余の被告四名に対し前記第五項(二)ないし(四)記載の損害合計三、九九二、五一二円から同第六項記載の填補額二、四四〇、五八六円を控除した一、五五一、九二六円の損害賠償請求権を取得したところ、原告塚治本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告らが弁護士である本件原告ら訴訟代理人に対し、本訴の提起追行を委任し、その手数料および謝金として少くとも各自三二五、〇〇〇円を支払う旨約したことが認められるが、本件認容額、事案の難易、その他本件にあらわれた諸般の事情に鑑み、弁護士費用として前記被告四名に負担さすべき額は、原告ら各自につき二〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

八  被告会社、被告谷口東市、同織田は原告らに対し慰藉料として五〇、〇〇〇円を弁済した旨主張し、前掲甲第一一号証、成立に争いのない同第一二号証によると、被告会社が原告らに対し五〇、〇〇〇円を交付したことは認められるが、右甲第一二号証によると右五〇、〇〇〇円は香典として原告らに交付したものであると認められ、従つて右は贈与であり、本件事故による損害の賠償として支払つたものとはいえず、他に右主張を認めさせる証拠もないので右主張は採用できない。

九  以上みてくると、原告らは各自、被告谷口静子をのぞくその余の被告四名各自に対し、前項記載の損害合計一、七五一、九二六円とこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四六年七月三一日以降支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得ることとなる。

よつて、原告らの被告井無田、被告会社、被告谷口東市、同織田に対する本訴請求は右認定の限度で正当であるから、これを認容し、右被告四名に対するその余の請求および被告谷口静子に対する請求は理由がないので棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田多喜子)

別表

〈省略〉

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